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長崎地方裁判所 昭和34年(わ)442号 判決 1959年11月13日

被告人 横田真

昭三・三・二八生 沖仲仕

楢村竜人

昭九・七・三一生 無職

主文

被告人楢村竜人を懲役四年に、被告人横田真を懲役一年及び罰金五、〇〇〇円に処する。

被告人楢村に対し、未決勾留日数中三〇〇日を右本刑に算入する。

被告人横田に対し、本裁判確定の日から三年間前記懲役刑の執行を猶予する。

被告人横田が前記罰金を完納することができないときは、一日につき金二五〇円の割合で同被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

第一、(一) 被告人横田真は、被告人楢村竜人と一緒に、昭和三三年一一月八日午前〇時過頃、長崎市本石灰町キヤバレーフロリダ前附近道路上を通行中、同所で酔いつぶれていた山口真努香から因縁をつけられたことに憤慨し、被告人楢村と共謀のうえ、右山口を同所から約五〇〇メートル離れた地点の同市西小島町六一番地布施保晴方前附近道路上に連行し、同所において、同人に対し、やにわにその顔面等を手拳で数回殴打し、更に、その場に引き倒して両手でその首を締めつける等の暴行を加え、よつて、山口真努香に対し全治約一二日間を要する顔面打撲等の傷害を負わせ、

(二) 被告人楢村竜人は、前記日時、場所において、右山口真努香に対し、被告人横田真と共謀のうえ前判示の如き暴行を加え、よつて同人に全治約一二日間を要する顔面打撲等の傷害を負わせたが、その際、同人が右暴行によりその反抗を抑圧された状態に陥つたところから、引き続き、右状態を利用して同人から靴を強取しようと企て、即時同所において、同人の履いていた短靴一足をぬぎ取つてこれを強取し、

第二、被告人横田真は、昭和三四年八月一六日午前一時頃、長崎市稲田町二五番地浜崎恒三郎方前道路上において、脇口英穂が自分と同じ西山組の沖仲仕である富野輝夫と大声で立話をしているのをみて、同人等が喧嘩しているものと速断し、右富野に加勢するため、いきなり右脇口の顔面を手拳で殴打し、もつて暴行を加え

たものである。

(証拠)(略)

(前科)

被告人楢村竜人は、昭和三一年一月二〇日山口地方裁判所下関支部において恐喝未遂罪により懲役六月に処せられ、当時右刑の執行を受け終つたものであつて、このことは検察事務官作成の同被告人に対する前科調書により明かである。

被告人横田真は、昭和三四年五月一五日長崎簡易裁判所において道路交通取締法施行令違反の罪により科料五〇〇円に処せられ、右裁判は同年六月一七日確定したものであつて、このことは検察事務官作成の同被告人に対する昭和三四年九月一七日附前科調書により明らかである。

(法令の適用)

判示所為中、被告人楢村竜人の判示第一(二)の強盗致傷の所為は、刑法第二四〇条前段に該当するので、所定刑中有期懲役刑を選択し、同被告人には前示前科があるから、同法第五六条第一項、第五七条、第一四条に従い法定の加重をし、なお、犯情にびん諒すべきものがあるから同法第六六条、第七一条、第六八条第三号を適用して酌量減軽した刑期範囲内で、同被告人を懲役四年に処し、同法第二一条にのつとり未決勾留日数中三〇〇日を右本刑に算入する。

被告人横田真の判示所為中、第一(一)の傷害については、同法第二〇四条、第六〇条、罰金等臨時措置法第二条第一項、第三条第一項に該当するところ、同被告人には前示前科があり、これと右傷害の罪とは刑法第四五条後段の併合罪であるから、同法第五〇条に従い更に右傷害の罪につき処断することとし、所定刑中有期懲役刑を選択し、その刑期範囲内で同被告人を懲役一年に処し、同法第二五条第一項を適用して本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとし、第二の暴行の所為については、同法第二〇八条、罰金等臨時措置法第二条第一項、第三条第一項に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、所定の罰金額の範囲内で同被告人を罰金五、〇〇〇円に処し、同法第一八条にのつとり、同被告人において右罰金を完納することができないときは一日につき金二五〇円の割合で同被告人を労役場に留置することとする。訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項但書にのつとり、被告人両名のいずれにも負担させない。

なお、検察官は、判示第一の犯行につき、被告人横田にも強盗の犯意があり、同被告人は楢村と共謀して山口から判示短靴を強取したものであると起訴しており、之にそう証拠として山口真努香の検察官に対する各供述調書、第三回公判調書中証人山口真努香の供述記載部分並びに被告人楢村竜人の検察官に対する各供述調書があり之によれば、被告人横田には、判示第一の暴行を加えるにあたり、被害者山口が着用している背広上衣の内ポケツトを物色したり同上衣を同人から脱ぎ取ろうとした旨の記載が見受けられる。しかし、第三回公判調書中証人山口真努香の供述記載部分、中村雅昭の司法巡査に対する供述調書及び受命裁判官の証人浅草謙作に対する尋問調書によれば、被害者山口は当時相当程度飲酒酩酊して知覚機能にかなりの障害をきたしていたことが認められるのみならず、右山口の前記各供述調書や公判廷での供述記載部分を仔細に検討すると、同人が被告人横田から物色されたというポケツトは、検察官に対する各供述調書では「左側」内ポケツトと述べ、公判廷での供述記載部分では、当初検察官の質問に「右側」内ポケツトと答え次いでなされた弁護人の質問には「酔うていたので、よう分りません。」と述べるなど、その各供述内容相互の間にかなりの食い違いや不明確な点が多数見受けられるから、これらの供述を直ちに信用するわけにはいかない。また、被告人楢村竜人の前記各供述調書中前記起訴事実にそう如く述べられている部分は、同被告人の公判廷における供述の内容、態度と対照して、その信ぴよう性にかなりの疑問がある。しかも、被告人横田の検察官に対する昭和三三年一一月一四日附供述調書及び同法警察員作成の実況見分調書によれば、被告人等が被害者山口に暴行を加えた本件犯行現場と被告人横田方との間の距離は約二〇〇メートルに過ぎないのに、判示キヤバレーフロリダ前附近道路から右犯行現場までは約五〇〇メートルもの距離があり、その間の道路上は人通りもほとんどなく、従つて、もし被告人横田に強盗の犯意があつたとすれば、わざわざ自宅に近い本件犯行現場まで連行しなくとも同所にいたる途中で犯行におよびそうなものである等の疑点もある。そして、以上の諸事情を総合すると、前掲起訴事実に副うかの如き前記各証拠をもつては、被告人横田に強盗の犯意があつたものと認定するのに充分でないといわなければならない。また、他に右犯意を認めるに足る証拠もない。従て判示第一(一)の如く傷害罪を認定するに止めたのである。

(裁判官 臼杵勉 藪田康雄 芦沢正則)

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